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業務の棚卸しからAIの使いどころを見つける手順 — 「何に使えるか分からない」から抜ける4つの段階

2026.10.27 約11分で読めます
AI導入

「AIを使えと言われるが、うちの会社の何に使えばよいのか分からない」——この状態で止まっている会社は少なくありません。 ツールの比較記事を読み、他社の事例を調べ、セミナーにも出た。それでも自社の業務のどこに当てはめるのかが見えてこない。 この行き詰まりは、AIの知識が足りないから起きているとは限りません。

多くの場合、足りないのは自社の業務が「どんな作業の集まりか」を細かく見た記録です。 使いどころは、AIの機能一覧から探すものではなく、業務の側から見つけるものです。 この記事では、AI活用と受託開発を手がけるCoconutWorksが、業務を書き出し、手間の大きい作業を選び、AIに向くかを見分け、小さく確かめるまでの4段階を、費用の数字を出さずに整理します。 導入全体の流れは中小企業の生成AI導入、何から始める?で扱っています。この記事は、その中の「業務棚卸し」を一段深く掘り下げた内容です。

結論: 業務の側から、4つの段階で使いどころを絞る

段階やることつまずきやすい点
①書き出す担当者の1週間分の作業を、業務名ではなく動作の単位で書く「営業事務」「経理」のような職種名で止まると、どの作業が重いのか見えないまま終わります。
②絞る回数・かかる時間・やり直しの多さ・待ちの発生で、手間の大きい作業に印をつける目立つ作業や声の大きい人の作業を選ぶと、実際に時間を使っている作業が候補から漏れます。
③見分ける入力・出力・確認・失敗の影響の4つの視点で、AIに向くかを確かめる「文章を扱うからAI向き」と見た目で決めると、確認の手間が増えて元より遅くなることがあります。
④確かめる残った候補を一つに絞り、今のやり方と比べられる形で小さく試す候補を並行して何件も試すと、どれも結論が出ず、棚卸しの成果が活かされません。

4つの段階はどれも、特別な道具や専門知識を必要としません。表計算ソフトか紙と、現場の担当者の協力があれば始められます。 差が出やすいのは①の書き出しの細かさで、ここが粗いままだと②以降が印象で決まってしまいます。以下、順に掘り下げます。

「何に使えるか分からない」状態で起きていること

使いどころが見つからない会社では、よく似た流れが見られます。 最初に「AIで何ができるか」を調べ、文章作成・要約・翻訳・画像生成といった機能の一覧を眺める。 次に「うちの業務に使えそうなものはあるか」と考えるものの、業務のほうを職種や部署の単位でしか把握していないため、 機能と業務が結びつかないまま終わります。

たとえば「営業事務の業務を効率化したい」という言葉は、書き出すと見積書の作成、受注内容の転記、納期の問い合わせ対応、請求前の突き合わせなど、 性質の違う作業の束です。AIに向く作業と向かない作業が同じ束の中に混ざっているため、束のまま眺めても向き不向きが判断できません。 機能の側から探しても、業務の側が粗いままでは接点が見つからないのです。

もう一つ多いのが、導入を指示する立場の人と、実際に作業している人との間で、業務の見え方がずれているケースです。 経営側は「あの部署は人手が足りないようだ」と感じていても、現場では特定の作業だけに時間を取られていることがあります。 棚卸しは、この見え方のずれをそろえる作業でもあります。

①書き出す: 動作の単位で1週間分を残す

最初の段階は、一人の担当者を選び、その人の1週間分の作業を書き出すことです。 ポイントは粒度で、「受注処理」ではなく「メールで届いた注文内容を受注表に転記する」「在庫を確認して納期を返信する」のように、動詞で終わる一つの動作の単位に分けます。 一つの作業が数分から数十分で終わる程度の細かさが目安です。

書くときは、各作業に最低限の情報を添えます。いつ・どのくらいの頻度で発生するか、1回にどのくらいかかるか、 何を見て(元の資料)何を作るか(できあがるもの)、途中で誰かの確認や承認が入るか、の4点です。 正確な数字である必要はなく、「毎日・15分くらい」「月末だけ・半日」のような感覚値で構いません。

進め方としては、本人に思い出して書いてもらうより、1週間のあいだ作業の合間に一行ずつ記録してもらうほうが漏れが減ります。 人は印象の強い作業を覚えていて、毎日少しずつ発生する地味な作業は忘れてしまうからです。 後から効いてくるのは、実は後者であることが多くあります。 記録の負担を重くしないために、書式は自由にして、「何をしたか」だけを書いてもらうのが続けるコツです。

②絞る: 手間の大きい作業に印をつける

一覧ができたら、次に手間の大きい作業を選びます。見るのは次の4点です。

  • 回数 — 毎日・毎週と繰り返される作業は、一回の短縮が小さくても積み上がります。
  • かかる時間 — 一回が重い作業は、減らせたときの効果が見えやすくなります。
  • やり直し — 転記ミスの修正や差し戻しが多い作業は、見えにくい時間を食っています。
  • 待ち — 作業自体は短くても、誰かの返事や承認待ちで止まる作業は、全体の遅れの原因になります。

ここで起きやすい失敗が、目立つ作業や、声の大きい人が困っている作業を選んでしまうことです。 大きな案件の資料づくりは印象に残りますが、年に数回なら全体への影響は限られます。 逆に、毎日の転記や問い合わせメールの振り分けは地味でも、1年で見ればいちばん時間を使っている作業だった、ということがあります。印象ではなく、①で書き出した記録に沿って選ぶのが、この段階の要点です。

印をつける数は、3〜5件程度に絞ると次に進みやすくなります。 それ以上あると、③の見分けが浅くなり、結局どれから手をつけるか決まらなくなります。 絞り込めないときは、「これが半分になったら、一番助かる」と現場が答える作業から並べ直してみてください。

③見分ける: AIに向くかを4つの視点で確かめる

手間の大きい作業でも、すべてがAIに向くわけではありません。 ここで見るのが入力・出力・確認・失敗の影響の4つの視点です。

視点向いている形向きにくい形
入力元になる文書やデータが、デジタルで手元にある紙・口頭・担当者の頭の中にしかなく、まず集めるところから始まる
出力下書き・分類・要約・抜き出しなど、一次案で価値が出る最初から正解が一つに決まっていて、少しのずれも許されない
確認人が見て直す前提で回せる。見る人と時間が確保できる確認する人がいない、または確認に元の作業と同じだけかかる
失敗の影響間違いが出ても、次の工程に渡る前に気づいて直せる間違いがそのまま社外へ出る、金額や契約に直結する

とくに見落とされやすいのが「確認」です。AIの出力は人が見て直す前提で使うことが多く、 確認に元の作業と同じだけの時間がかかるなら、AIを入れても楽になりません。確認する人と時間が実際に確保できるかを、この段階で現場に聞いておくことが重要です。 確認の負担が軽くなるのは、たとえば下書きの方向性が合っているかを見るだけで済む作業や、 分類の結果を一覧で眺めて外れだけを直せる作業です。

「失敗の影響」も同様に、後から効いてきます。社内の下書きのように、間違いが出ても次の工程の前に直せる作業は、 試す場として扱いやすいです。逆に、金額や契約の内容がそのまま社外に出る作業は、 最初の候補にはせず、仕組みに慣れてから検討する順番のほうが安全です。 4つの視点のうち、向いている形に多く当てはまる作業が候補の上位です。

既存の業務システムとつなぐ必要がある作業は、データの取り出し方や権限の設計が絡むため、手順が一段増えます。 その場合の考え方は既存の業務システムにAIを後付けするときの考え方で整理しています。

④確かめる: 一つに絞り、今のやり方と比べて試す

候補が残ったら、まず一つだけを選んで小さく試します。選ぶ基準は、③で向いている形に多く当てはまり、 現場の担当者が協力的で、失敗の影響が小さいもの。効果が大きそうな作業より、試しやすく、結果を判断しやすい作業を優先します。 最初の一件で「やり方と見方」をつかんでおくと、2件目以降は短い期間で進められます。

試すときは、今のやり方との比較ができる形にします。①の記録がそのまま比較対象になるため、 棚卸しの手間はここで活きます。同じ作業を数回、AIを使った場合と使わない場合で行い、 かかった時間・直した箇所・迷った点を書き留めます。 試した結果の判断の仕方、つまり「どうなったら進める/やめる」を先に決めておく考え方はAIの試用(PoC)で止まらないための出口条件で詳しく扱っています。

文章の下書きや要約のように、既存の道具で試せるものは、社内だけで数回試して感触をつかめます。 社内の資料や既存システムのデータを使う場合は、データの整理や権限の設計が必要になるため、 棚卸しの一覧と候補を持って相談していただくと、社内で試せる範囲かどうかの切り分けから始められます。

棚卸しがうまくいかないときの典型例

「全部の業務を網羅しようとして止まる」 — 全社の棚卸しは、書き出しだけで長い期間を使い、 使いどころを決める前に関心が薄れます。一つの部署の一人の1週間から始めて、一周してから広げるほうが結果的に早く進みます。

「現場の協力が得られない」 — 「AIに仕事を任せるための調査」と受け取られると、警戒されます。 「面倒な作業を減らすための調査」と伝え、記録の負担を軽くし、結果を本人に返すことで、協力は得られやすくなります。 棚卸しの目的は人員の削減ではなく、手間の見える化だと最初に共有しておくことが大切です。

「AI向きの作業を見つけること自体が目的になる」 — 棚卸しの結果、AIを使わなくても手順の見直しや 既存ツールの設定変更で解決できる作業が見つかることもあります。そのほうが費用も運用の手間も小さく済むなら、それも立派な結論です。 AIありきで探すと、本来不要な仕組みを作ってしまいます。

よくある質問

Q. 棚卸しは全部の業務を洗い出さないと意味がありませんか
A. 全部を洗い出す必要はありません。最初は、手間や待ちが気になっている部署か職種を一つ選び、その人たちの1週間分の作業を書き出すだけで足ります。全社の業務を網羅しようとすると、書き出しだけで長い時間がかかり、肝心の使いどころを決める前に熱が冷めがちです。まず一つの現場で一周回し、書き出し方と見方が分かってから範囲を広げるほうが、結果として早く全体に届きます。
Q. 現場の人が「AIに任せられる仕事なんてない」と言うときはどうすればよいですか
A. 「仕事を奪われる」という警戒か、「うちの仕事は特殊だ」という実感のどちらかであることが多く、どちらも自然な反応です。任せる話から入るのをやめ、「毎回面倒だと感じる作業は何か」「やり直しが多い作業は何か」を聞いてください。AIの話をせずに困りごとを集め、そのあとで候補を一緒に見ていくと、現場が「自分の仕事を手伝ってもらう」話として受け止めやすくなります。最終的に人が確認する前提で組むことも、あわせて伝えておくと安心されます。
Q. AI向きの作業が見つかっても、小さく確かめるのに外部の力は必要ですか
A. 対象によります。文章の下書きや要約のように既存の道具で試せるものは、社内だけで数回試して感触をつかめます。一方、社内の資料や既存システムのデータと組み合わせる場合は、データの整え方や権限の設計が絡むため、早い段階で相談したほうが遠回りになりません。どちらに当たるか分からないときは、棚卸しの一覧と候補を持って「この作業は社内で試せる範囲か」を聞くだけでも、判断の助けになります。
Q. 棚卸しをして、AIを使わないほうがよいと分かった場合は無駄だったのでしょうか
A. 無駄にはなりません。棚卸しで見えてくるのは、AIに向く作業だけではなく、手順を決めれば解決する作業や、既存のツールの設定で済む作業、そもそもやめてよい作業です。AIを使わずに解決できるならそのほうが費用も運用の手間も小さく済みます。「AIは不要」という結論も、判断を急がずに出せた成果の一つです。

まとめ

AIの使いどころが見つからないとき、足りないのはAIの知識より、自社の業務を動作の単位で見た記録であることが多くあります。 担当者の1週間分を書き出し、回数・時間・やり直し・待ちで手間の大きい作業を選び、入力・出力・確認・失敗の影響の4つの視点で向き不向きを見分け、 一つに絞って今のやり方と比べて試す。この順序で進めると、使いどころが印象ではなく記録から決まります。 棚卸しの結果をお持ちいただければ、そこからのご相談も歓迎です。AI導入・活用支援サービスのページもあわせてご覧ください。相談・お見積もりは無料です。

執筆: CoconutWorks株式会社 代表取締役 中森 康介 — LINE構築・運用代行、システム開発、AI導入支援を手がけています。会社概要

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