業務を仕組み化しようと考えたとき、最初に突き当たるのが「既製のSaaSを契約するか、自社で作るか」という選択です。 SaaSはすぐ使えて安く見え、自社開発は自由度が高い——大まかにはその通りですが、 この理解だけで決めると、後から「思っていたのと違う」となりやすい部分でもあります。
この記事では、受託開発を手がけるCoconutWorksが、両者の違いを構造から整理し、 どちらを選ぶべきかの判断手順をまとめます。開発会社の立場ではありますが、SaaSで足りるなら、そのほうがよいという前提で書いています。 具体的な金額は会社や規模で大きく変わるため触れず、考え方に絞って解説します。
結論: SaaSと自社開発の違いを構造で見る
| 比較項目 | SaaS(既製品) | 自社開発 |
|---|---|---|
| 使い始めるまで | 契約すればすぐ使える。設定だけで動き出す | 要件定義から作るため、数か月単位の期間が必要 |
| 費用のかかり方 | 初期は軽く、利用人数や期間に応じた月額が続く | 初期に大きくかかり、その後は保守・改修の費用 |
| 業務との合わせ方 | 製品の作りに業務を合わせる。設定で調整できる範囲まで | 業務に合わせて作れる。独自の手順もそのまま再現できる |
| 機能の追加・改善 | 提供元が更新する。要望が反映されるとは限らない | 必要なときに自分たちの判断で改修できる |
| 向いている状況 | 一般的な業務・小さく始めたい・すぐ使いたい | 業務が独自・既製品との差が大きい・長く使う前提 |
大きな違いは、「製品に業務を合わせる」のがSaaS、「業務に製品を合わせる」のが自社開発という点です。 費用や期間の差は、この構造の違いから生まれる結果にすぎません。 どちらが優れているという話ではないので、自社の業務がどちらの前提に馴染むかで選ぶことになります。以下、順に掘り下げます。
まずは「SaaSで足りないか」を疑う
開発の相談をいただいたとき、最初に確認するのは「それ、既製品では本当にできませんか」ということです。 近年はSaaSの種類が増え、予約・顧客管理・在庫・勤怠・請求といった一般的な業務であれば、 設定の範囲で十分に回せることが少なくありません。
よくあるのが、「うちの業務は特殊だから既製品は使えない」という前提が、 検証されないまま共有されているケースです。実際に業務を分解してみると、 本当に独自なのは一部の工程だけで、残りは一般的な流れだった、ということがよくあります。独自だと思っている部分が、慣習でそうなっているだけなのか、 競争力の源泉なのか——この切り分けが、無駄な開発を避ける第一歩になります。
既製品に合わせて業務のやり方を少し変えられるなら、SaaSのほうが早く安く始められます。 逆に、その手順こそが自社の強みで変えるべきでないなら、開発を検討する価値があります。
SaaSが向いているケース
- 一般的な業務をまず仕組み化したい — 予約・顧客管理・請求など、多くの会社が同じように行う業務。既製品の想定に素直に乗れます。
- すぐに使い始めたい — 開発を待つ余裕がなく、今の手作業を早く減らしたい場合。契約したその日から動かせるのは大きな利点です。
- 初期費用を抑えたい — まとまった投資が難しい段階では、月額で始められることが選択肢を広げます。
- 要件がまだ固まっていない — 何が必要か分からない段階では、まず既製品を使ってみることが最も具体的な要件定義になります。
とくに最後の点は見落とされがちです。SaaSをしばらく使うと、「どの機能は要らなかったか」「どこが業務と合わないか」が実感として分かります。 いざ開発する段になったとき、この経験がそのまま要件になるため、遠回りにはなりません。
自社開発を検討すべきサイン
- 既製品に合わせるために、業務側の手間が増えている — 本来不要な入力や、SaaSの都合に合わせた運用ルールが積み重なっている状態。
- 複数のSaaSをまたいだ二重入力が常態化している — 同じ情報を別々のツールに入れ直している時間は、そのまま損失になっています。
- 業務手順そのものが自社の強み — 独自の段取りが競争力になっている場合、それを既製品に合わせて崩すのは本末転倒です。
- 利用人数が増えて月額が重くなってきた — 人数課金のSaaSは、規模が大きくなるほど負担が増します。長期の総額で見直す時期かもしれません。
エクセル運用が限界に近づいているサインについてはエクセル管理の限界サイン7つでも整理しています。あわせて確認すると、今どの段階にいるかが見えやすくなります。
第三の選択肢: 組み合わせて隙間だけ作る
実務でいちばん現実的なことが多いのが、SaaSを土台にして、足りない部分だけを作るという進め方です。 「全部SaaS」か「全部自社開発」の二択で考えると判断が重くなりますが、 両者は排他ではありません。
たとえば、会計や顧客管理は既製のSaaSに任せ、自社固有の集計や、ツール間のデータ受け渡しだけを小さく開発する。 こうすれば、既製品の恩恵(すぐ使える・更新される)を受けながら、業務に合わない部分だけを埋められます。 費用も期間も、全面開発に比べればはるかに小さく収まります。
近年はここにAIを組み合わせる選択肢も現実的になりました。 たとえば、SaaSから出したデータの整理や、定型的な確認作業をAIに任せて、 人が判断すべき部分だけを残す、といった作り方です。 弊社でも自社の請求業務でこの形を実践しています(請求・入金管理とAI連携の事例)。全面刷新の前に「つなぐ」「隙間を埋める」で足りないかを検討すると、投資を抑えられます。
迷ったときの判断手順
どちらを選ぶか決めきれないときは、次の順序で確認すると整理しやすくなります。 いずれも「小さい選択肢から順に潰していく」考え方です。
- ①今の困りごとを具体的に書き出す — 「効率化したい」ではなく「同じ情報を2つのツールに入力している」まで具体化します。
- ②既製のSaaSで解決できないか調べる — 設定変更や別のプランで済むなら、それが最短です。
- ③連携・部分開発で足りないか検討する — 既存のSaaSを活かしたまま、隙間だけ埋められないかを見ます。
- ④それでも合わなければ開発を検討する — ここまで来て初めて、自社開発が妥当な選択肢になります。
この順序を飛ばして最初から開発を前提にすると、既製品で済んだはずの部分にも費用をかけることになります。 逆に、②③で解決しない状態を我慢し続けるのも、見えにくい形で時間を失います。段階を踏んで、そのつど「ここで足りるか」を確認するのが、結果的にいちばん無駄がありません。
よくある質問
まとめ
SaaSと自社開発は、「製品に業務を合わせる」か「業務に製品を合わせる」かの違いです。 まずSaaSで足りないかを疑い、次に連携や部分開発で埋められないかを見て、 それでも合わない場合に開発を検討する——この順序で進めると、投資を抑えながら着実に前に進めます。 「SaaSの設定で済むのか、作るべきなのか」という切り分けからのご相談も歓迎です。システム開発・業務改善サービスのページもあわせてご覧ください。相談・お見積もりは無料です。

